この記事は、当ブログのビジネステーマとはまったく無関係でして
野村芳太郎監督『砂の器』という映画・ドラマ・小説に
ご興味ある方だけに向けた通好みの話に終始しております。
ただ私自身にとっては、ビジネス面でも
得られたヒントがあり、そこんところも
ちょっとだけ触れております。
映画無関心が大好きになった転換点
映画の封切りは1974年。
当時、進学校で真面目なふりをしていた私は
悪友にほだされて午後の授業をさぼり、
さびれた映画館へ「砂の器」を観に行きました。
さしたる興味はなかったのですが
映画好きの悪友の付き合いです。
昭和時代の典型的な田舎町の映画館。
映画の中にも伊勢の映画館が出てきますが
あれと大差ありません。
今覚えていることは、とにかく衝撃受けたことです。
衝撃がでか過ぎて、事態を正確に把握できず
しばらく立つのを忘れていたほどです。
暗い映画館の出口扉の前に、
補導係の教師が立っているのを見て
ハッとしたのですが、その教師も
映画が終わるまでじっと観ていたはずです。
或いは私たちが外に出るまで
待っていてくれたのかもしれませんが
外に出たとき教師の目が真っ赤だったのを
昨日のように覚えています。
私はまだ子供だったのでしょう。
物語の感動が押し寄せてくる前に、
衝撃のほうが圧倒していたせいか
その時は魂が抜けたようにボーっとなりました。
学生帽と学生服で授業のある時間帯に
2人組が映画館でフラフラしているという連絡を
映画館から受けて飛んできたに違いない教師からは
形式的に叱られましたが・・・
その教師は以降卒業までいつも味方になってくれ
恩人にもなってくれたのです。
私はこの映画の強烈な印象と、教師の理解ある
まなざしからか、知らずいつの間にか
悪友以上に映画フリークになり今に至っています。
その後、2019年フジテレビ系で5度目のドラマ化
となるわけですが、ドラマはもちろんのこと
オリジナル映画についてはVHS時代、DVDを経て
今はAmazon Prime Videoなどで30回以上は
繰り返し観ております。
これ(砂の器 デジタルリマスター版)です。
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(画像がうまく表示されない場合は、ブラウザ再読込みで表示されます)
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優れた映画、大好きな映画、何度も観た映画は
数えきれないくらいほどなんですけど
「日本の映画で一番好きなのはな~に?」
とNHKのチコちゃんに聞かれたら
私の場合、「砂の器」になります。
映画好きになったきっかけを与えてくれた
決定的な作品がこれだからです。
陳腐だけどそれ以上賛美しようがないレビュー
映画「砂の器」が私たちに訴えてくること・・・
悲惨な親子の旅の中に親子にしかわからない愛情と
悲惨な旅とはあまりにも対照的な旅情を誘う風景
そして、ドラマチック且つ心をえぐるよう切ない組曲「宿命」
これらのすべてが日本人のDNA、
心の琴線に触れてくるのです。
Amazonで検索するとこの映画の
最近のコメントでも異様に評価が高いことが分かります。
正直オリジナルにあるこのテーマは重いです。
そして重いだけではなく、
そこに込められた愛情や思いがメロディと共に
私たちの心を釘付けにします。
この映画そのものの感想はAmazonなんかに
寄せられた数多くのレビューをご覧になるほうが良いでしょう。
私は映画を観て関心をもって、そして
期待して松本清張の原作小説を読んだクチです。
期待という意味は、ドラマチックな回想シーンが
さぞや詳しく描写されているに違いないと思ったからです。
ところが正直なところ拍子抜けしました。
肝心の残り1/3近く、40分に相当する描写はサラッと
ほんの数行でまとめられています。
原作者である松本清張にして
「小説では絶対に表現できない」
と言わしめた箇所になります。
当時脚本担当だった橋本忍さん、山田洋次さんは
原作読んで映画にできるとは思えないと考えていたそうですね。
この小説に存在していない親子の旅・・・
シナリオ化する着想を橋本さんは
人形浄瑠璃から得たそうです。
橋本さんはインタビュー記事で次のように答えています。
昔から人形浄瑠璃をよく見てた。
だから右手に義太夫語りがいて、
これは警視庁の捜査会議でしゃべっている刑事。普通はその横に三味線弾きがいるけど、
逆に三味線弾きは数を多くして全部左にいる。真ん中の舞台は書き割りだけど親子の旅。
お客は刑事を見たければ刑事のほうを見ればいい。
音楽聞きたければ三味線弾きを見ればいい。
舞台の親子の旅を見たければ舞台を見ればいい。そういう映画をつくるのが頭からあったわけ
操作会議でしゃべる今西刑事(丹波哲郎)
三味線弾きはコンサートホールで指揮を執り
『宿命』のピアノを弾く和賀 英良(加藤剛)
そして和賀の回想による親子の旅
これらが交錯しながら描写され、私自身のことで言うと
息ができないくらいに胸が熱くなってくるのです。
この映画は橋本忍さん、山田洋二さんの
脚本によって魂が宿った
と言って過言ではないと思います。
また俳優陣もすべて昭和を代表する豪華メンバーで
ここまで鬼気迫る演技はなかなかお目にかかれません。
主人公は今西刑事役の丹波哲郎さん。
その部下の吉村刑事に森田健作さん
(参議院議員を経て2019年現在千葉県知事)
天才ピアニスト兼作曲家を演じる
和賀 英良役の加藤剛さん。
元駐在所巡査の三木健一役の緒形拳さん。
なぜか映画館支配人役の渥美清さん(寅さん)
そして本浦千代吉役の加藤嘉(かとうよし)さん。
加藤 嘉さんは和賀英良の父親役でハンセン氏病を患っていました。
療養所で今西刑事と面会するシーンも小説にはありませんが
あのときの加藤さんの鬼気迫る演技は・・・
正直映画を見るたびに100%涙腺崩壊しております。
駐在所巡査役で殺された三木健一、つまり緒形拳さんは
当初この脚本に惚れ込んで本浦千代吉をやりたかったのに
断られたと聞きました。
ただ尊敬の念を込めて感想を言うなら
やはり緒形拳さんは三木健一で正解でした。
そして本浦千代吉は加藤 嘉さんで正解でした。
三木健一には緒形拳さん以外の配役は想像できませんし
本浦千代吉役は加藤 嘉さん以外にありえません。
役どころにピッタリ過ぎていて
他の人を想像できません。
ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」
砂の器の主題曲である『宿命』は
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芥川也寸志さんが音楽監督となり
ジャズピアニストである菅野光亮さん作曲によるものです。
(リンク先のページで試聴できます)
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映画の中では、東京交響楽団の演奏、出演と
菅野光亮さんのピアノ演奏となっています。
映画自体が毎日映画コンクール賞で大賞、脚本章、監督賞を受賞、
この名曲は音楽賞を受賞しています。
2004年版の11回のテレビドラマで
Amazon.co.jp: 「砂の器」オリジナル・サウンドトラック: ミュージック 続きを見る
和賀英良役として中居正広さんも良かったですが
この時、千住明さんによる書き下ろし楽曲の宿命も
オリジナルの雰囲気をそことなく漂わせ素敵でした。
(リンク先のページで試聴できます)
Amazon.co.jp: 「砂の器」オリジナル・サウンドトラック: ミュージック
『砂の器』を全くご存知ない方も是非一度
お聴きになるだけで、きっと物語の奥深さを
想像できるんじゃないかなぁと思います。
今西刑事(丹波哲郎さん)から教わる
ここで横道ながら、ビジネスに関係する
私の気づきをメモしておきたいと思います。
何かの商品を企画するときに
お客さまの声を聞け
という言い回しをご存じかと思います。
これは言うのは簡単ですが、本当は
とてつもなく難しいことのひとつです。
営業やマーケティング担当者ならわかるはずです。
適当に市場調査をやってアンケートを
とってみるとか、そうしたところで
本当のニーズを掘り当てることは至難の技。
お客さまの本当の声を聞くには
どうしたらいいでしょうか。
この答につながるアプローチのひとつが
今西刑事の言動に秘められているように感じます。
どういうことかと言うと、
お客さまの声を知るには・・・
お客さまになりきって考え行動してみる、
映画の中では犯人の立場になりきって考え行動してみる。
何度この映画を観ても、丹波哲郎さんの
魅力かもしれませんが、そのあたりをごく
自然に教えてくれてるように感じております。
ドラマ化に挑戦する人々へ敬意を込めて
この記事で実は一番言いたかったことです。
オリジナル映画封切の後では
1977年
1991年
2004年
2011年
そして2019年
と5度目の『砂の器』ドラマ化になります。
それだけオリジナル作品が魅力的であり
同時に視聴率を間違いなく稼げるから
他にもいろいろ理由があると思います。
ただ毎度思うのですが、俳優さんも大変でしょうけど
新たにドラマを企画する方に特別な感慨を抱きます。
松本清張の原作は、社会派小説として
日本の暗部をえぐっておりました。
すなわち、ハンセン氏病という1974年当時でさえ
映画化とその公開にあたって様々な反対意見のあった
重く業の深いテーマです。
映画の最後に流れるテロップで
ハンセン氏病に対する当時の偏見を正す
メッセージでも伺い知ることができます。
映画以降のすべてのドラマにおいて
ハンセン氏病は一度も扱われておりません。
当然と言えば当然で、企画の段階で
すぐに潰れるタブーとなる話題です。
しかしながら・・・
このハンセン氏病という重すぎるテーマゆえに
映画のリアリティを否が応でも
決定的に高めることに成功しています。
なぜその殺人を犯したのか?
そこに、やるせない人間の業を語り
視聴者の共感を得るミステリーの
最も深い部分において、このテーマ
だからこそ惹きつけて止まないのです。
テレビドラマでは、このテーマを扱えません。
従って別のシナリオを考えないとなりません。
なぜそうしたのか?
を視聴者に単に『ああ、そういうことね』
だけではなく、心の琴線に訴えられるかどうか
そういったシナリオ、脚本を考え出すのは
途方もなく難しいだろうと推察します。
そこに挑戦者としての敬意を覚えるのです。
オリジナルを絶対に越えられないが
それに迫る脚本を作らないとならない
ドラマ化にあたって関係者の意気込みと
努力に毎度深い敬意を覚えています。
2019年のドラマ化は、3月28日に
フジテレビの開局60周年として放映されます。
今西刑事を東山紀之さんが
和賀役を中島健人さんが
本浦千代吉役を柄本明さんが。。。
今の時代にあった、そして今の若い人たちに
自然に受け止められる"重いテーマ"が
切り口になっているはずです。
砂の器は、重いテーマがふさわしい、
そうでなければ砂の器足りえないのです。
脚本家、監督、俳優含めドラマに関わる
全ての挑戦者たちにエールを送りたい。
昭和に作られた名作『砂の器』が
昭和~平成の最後の年まで繰り返しドラマ化され
次の元号でも再びドラマ化されることを
これからも楽しみにしています。