コダック 破産

strategy 木坂健宣

インターネットがもたらすもの(4)~コダック崩壊からあなたは何を気づく?

今までに起きたことから今できることを考えるために

"インターネットがもたらすもの"というシリーズ第4話となります。

第1話:インターネットがもたらすもの(1)~テクノロジーの歴史を紐解く
第2話:インターネットがもたらすもの(2)~勝者総取りのルール
第3話:インターネットがもたらすもの(3)~GoogleとSEOの誕生秘話

一連の話は、私の個人的な見解に過ぎませんが
もともとコンピュータとインターネット歴史を振り返ったとき
そこに何があったのか。
そこから何が言えるのか。
だからどうしなくてならないか。

を考えてみようと思ったのがきっかけです。

このシリーズでGAFAを引き合いに出しているのは
ある意味、時代の象徴に他ならないからです。

最近話題になっているAIの驚くべき進化とか、
人間が一切手出しできなくなるテクノロジーの
特異点であるシンギュラリティポイントの話とか、
IT業界に何十年もどっぷりいたせいか
私たちの生活を一変する出来事がすぐ迫っている予感が強くあります。

因みにAIは今は第三次ブームとなっており
クラウドやエッジコンピューティングとの連携などで
普通の人が普通の生活で何となく近い存在と理解し
鬼ほど使える技術であるが、同時に得体の知れない恐怖も感じる、
私たちはそういう時代の中にいます。

テクノロジーのもたらす革命によって
そこにはメリットと同時に破壊的に雇用を奪う日が
突然に襲ってくるデメリットが過去にも存在しました。

ごく最近、Google検索エンジンの大きなアップデートがありましたが
このような末端の話でさえ、右往左往するのが私たちです。

今回は、よくテクノロジー革命の犠牲者、あるいは
『イノベーションのジレンマ』として話題になるイーストマン・コダック社。
これをとりあげ、少し深掘りしてみたいと思います。

同社は2012年に破産法適用となり、2013年に
大幅に規模縮小のうえ再出発し、今日に至っております。

この過程で、同社の最重要資産でもあった数多くの特許を
GAFAに譲渡せざるを得ない状況になりました。
(デジタル画像技術の特許です。)

因みに本記事は、同社を批判や中傷する内容では
決してありませんのでお間違えなきようご注意願います。

 

ディストピアとなったロチェスターダウンタウン

ロチェスターという町に、画像処理エンジニアとして
しょっちゅう出張を繰り返していた私のかつての同僚は、
『時が止まったみたいで夜はブレードランナー思い出します・・・』
と語っていました。
(※ブレードランナーは、リドリー・スコット監督の映画名)

ロチェスターはニューヨーク州にあり、
広大なコダック・パークと呼ばれた
イーストマン・コダック社の興亡を物語る静かな町です。

コダックがカラーフィルムを開発・販売開始したのは1935年です。

そのカラーフィルムは『コダクローム』と呼ばれ
20世紀のフィルム代名詞とも言うべき存在でした。

1968年にニール・アームストロングが月面で撮った写真も
コダクロームが使われていました。

1973年にサイモン&ガーファンクルがコンビを解消し、
ポール・サイモンがプロデュースした作品で、
『僕のコダクローム』(KODACHROME)という曲も懐かしい。

ポール・サイモンがこの曲を作った当時、
アメリカにおけるフィルム総売上の実に
90%をコダックが占めていました。

 

イーストマン・コダックのキャッチコピーとデジタル革命

あなたはシャッターを押すだけ。後はお任せください。

この素敵なコピーは、100年もの間、コダックに富と名声を
もたらしてきました。

人々はコダクロームのフィルムを使ったカメラで
シャッターを押した後は現像サービスでお金を払ってきました。

そして・・・デジカメの登場により
銀塩フィルムは突然の終わりを迎えることになりました。

はい、おしまい。。。

ではありません。

重要なことはここからです。

デジカメって、キヤノン、ニコン、富士フイルム、
オリンパス、パナソニック、カシオ・・・
さてどのメーカが最初に製品化したのでしょうか?

答はここにありません。

デジカメの発明者は、銀塩フィルムの支配者でもあった
イーストマン・コダック社なのです。

1975年のことですから、ポール・サイモンの曲より
わずか2年後のことです。

100ピクセルx100ピクセルの10,000ピクセルよりなる
デジタル画像で、テレビに映すこともできたそうです。

商用化されたデジタルカメラは1988年に
富士フイルムが世界で初めて発表しましたが
元祖はコダックだったと言えます。

これ、何が言いたいかおわかりでしょうか。

コダック社はまさにコダクローム絶頂期に
銀塩フイルムの先を読んでいたことになります。

銀塩フィルムに代わり、デジタルで作られる
写真時代を誰よりも先に予見していたのです。

 

コダックが破綻した本当の原因を考える

誰より早くデジカメを発明したコダックは
なぜこうも簡単に崩壊してしまったのでしょうか。

コダックはデジカメ以外にも、デジタル化へ向けた
投資を先行していました。

マーク・ザッカーバーグがfacebook開発のため
そのコードをしこしこ取り組んでいたと同じ頃・・・

コダックは1999年に今でいう『写真共有サイト』
Ofoto(オフォト)に手を出し始めて
2001年に買収しました。

2005年にはKodak EasyShare Gallery
というサービス名となっています。

写真がいずれデジタル化されオンラインで
シェアされることさえ、先読みしていたのです。

凄いことですが同時に惜しいですね、実に。
この勢いなら、本来ならコダックは今頃
デジタル画像を扱う最強メーカだったかもしれません。

未来を予見できる技術力と投資力をもっていたのになぜ?

銀塩フィルムメーカであった富士フイルムは
1980年代、コダックの後塵を拝し手も足も出ませんでした。

富士フイルムがその後、磁気テープや他のフィルムと隣接した
技術分野、あるいはヘルスケアといった分野で今は
圧倒的な成長を遂げていることと比べても
ではなぜ?という答えがなかなか見つかりません。

おそらくカメラと携帯電話(今はスマホ)が
一体化したことが消滅を加速する要素のひとつだと思います。

つまり、
デジタル画像を印刷する必要性が急速に薄れてきた
ことが背景にあると思うのです。

コダックは、Ofoto買収の目的を
デジタル写真を印刷する人を増やすため
に置いていたように思えます。

市場が動こうとしている方向ではなく
逆のことにこだわっていたように思えるのです。

つまり、Ofotoのオンライン共有技術の価値を
取り違えていたようにしか思えないのです。

コダックはOfotoを印刷事業拡大の手段
みなしていたようですが、それこそが間違いでした。

"画像のオンライン共有"こそが
新しいビジネスモデル到来の可能性を示していたのですが
過ちはそれに気づけなかったこと
もし気づいていたなら受け入れられなかったこと

です。
(気づき、受け入れようとしていた人はいたと思いますが
 企業全体としてはそう動けませんでした。)

 

 

あなたの仕事を奪うネットワークオートメーション

AIの覇者になろうと巨額な投資を続けるGAFAは
従来の大中小企業もろもろに破壊的変化を
要求するだろうと想像できます。

例えばAmazonやGoogleが考えている
ドローン配送サービスやドローン配送ネットワーク
は数年前からアメリカでも脅威となっています。

GoogleはUPS、FEDEX、DHLなんかの現存システムと
もしかすると競争相手になるかもしれません。

UPSとFEDEXだけでも70万人以上の雇用者がいますが
ドローン革命はどれほどの衝撃をもたらすか
分厚い中間層に与えるインパクトは空恐ろしいです。

アメリカで起こることは遠くないうちに
日本でも起こるのが常識ですので
もちろん他人事で済む話ではありません。

AIに関する話で2019.3.24の朝日新聞1面に
『AIの判断 救いか災いか』
という記事が掲載されていました。

AIによる犯罪予測システムです。

ロス市警77丁目署の一室風景も載っています。
そこには、犯罪可能性が高い『ホットスポット』を
示す地図や要注意人物の足取りが画面に表示されています。

職務質問も『AI予測』に頼っているため
偏見や差別を助長するリスクに議論も荒れているようです。

日本でも京都府警が新年度から
AIによる予測システムを導入するそうです。

なんか、トムクルーズ主演の2002年公開された近未来SF映画
マイノリティ・リポート』を思い出しました。

まさかと思っていたSFの世界が、今リアルに
20年もしないうちに目の前に起こりつつあります。

ところで今日の情報経済は、ドーナツ型経済と特徴づけられます。

ごく一部のエリートとそれ以外の人々の間で
格差が広がり続け、真ん中がスポッと抜けている状態です。

エリートの代表格がAIを使いこなすGAFAです。

そうなる過程には破壊的変化が必ず生じるわけですけど
人はどうしても現状維持、現状が変わって欲しくない
という思考の枠組みから抜け出すことが難しい。

つまり気づいても、受け入れらないことです。
コダックに起こったことがこれでした。

破壊的変化が可能にする新たなビジネスモデルを
十分に受け入れられないのです。

第4話の最後にあらためて私たちの小さな
インターネットビジネスに戻ってみましょう。

何かのショートカットや手順を中心とした教えであるとか、
それを愚直に毎日繰り返しているだけとか・・・
実際のところいくら汗をかいたところで難しいのが現実ですが、
それ以上にこのままの延長線上に明るいものがあると感じますか?

そのスタートとしては一刻も早く、
現状を疑うことかもしれません。

無残にも、私たちが今は正解だと(確信できてなくても)
信じている手段やビジネスは、コダックと同じような
運命をたどる可能性が高いように思えてなりません。

最初は徐々に、そしてある時から一気に使えなくなるビジネスです。

(個人的には、従来型のネットビジネスモデルは
ことごとく同じように主にAIテクノロジー革命に
さらされて、ごく短期間に使えなくなると予想しています。
今までは変化は緩やかだったので、まだまだという感じでしたが
AI実用化が浸透し、輪をかけてこのテクノロジーは進化しており
まもなく従来型ビジネスは一度淘汰されると予感しています。)

だからこそ私自身いつも心に置いていることは、
破壊的変化が可能にする新たなビジネスモデル到来に気づくこと
そして到来したら、いち早く受け入れて自分が変わることです。

このような劇的変化に逆らっても無意味ですし、
であればその予兆を早く掴みたい、
できればその予兆を理解できる人には早く伝えたい
そう願うばかりです。