早期退職、役職定年、定年後の再就職。
こうしたタイミングで、新しい職場へ移るシニア世代は少なくありません。
しかし、実際には再就職そのものよりも、
その後に新しい職場へ適応することのほうが難しいかもしれません。
特に、大企業や中堅企業で長く働いてきた人ほど、
新しい環境とのギャップに戸惑うのをたくさん見てきました。
最近、幻冬舎ゴールドオンライン記事で、
年収1,200万円の元営業本部長が、役職定年や早期退職後に居場所を失い、
孤独な日々を送るようになったという話が出ていました。
おそらくシニア世代では同じような経験者は多いと思います。
こちらの記事です。
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悔やんでます…年収1,200万円の元営業本部長、「65歳までバリバリ働く」はずが59歳で静かに退場。昼間からぼんやりテレビを眺める空虚な日々|資産形成ゴールドオンライン
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もちろん、これはひとつの事例です。
ただ、私自身も早期退職制度を利用し、その後は複業モードで仕事をしております。
副業ではなく、複数の仕事をすべて本業にしている感じです。
そのひとつに縁があって某企業で中途採用の面接官として、
シニア世代の採用面接にも関わっています。
それまでは採用される側の立場でしたが、まさか採用する側で
ジャッジする立場になろうとは夢にも想像しておりませんでしたが、
これが人生というものでしょうか。
その後これまでに、大企業・中堅企業の早期退職組を中心に、
200人以上の方々と面接してきました。
その経験から見ると、先ほどの記事には「ハッ」と思うことが多々あり、
私見ながら、シニア転職でつまずく人にはいくつかの共通点があることを整理しました。
また逆に、躓かないためにどうすべきかにも触れておりますので、
少しでもご参考になれば幸いです。
シニア転職で失敗する原因は「能力不足」ではない
シニア世代の中途採用面接では、立派な経歴を持つ人に多く出会います。
・大企業で管理職を経験していた。
・大きなプロジェクトを動かしていた。
・高い年収を得ていた。
・部下を何人も(場合により何百人も)抱えていた。
・社内では一定の評価を受けていた。
もっと細かくいうと、
・一部上場企業の直系子会社の社長をしていた。
・数万人の企業での執行役員兼営業本部長をしていた。
こうした経験は、もちろん価値があるに決まっています。
(少なくとも本人はそう信じているものです)
因みに一部上場企業の直系子会社社長なら、再就職なんぞ心配しなくても
どこぞの関係会社や取引先に滑り込むことは簡単なのでは?
と思われたかもしれませんが、実際はかなりドライです。
『自分の行先は自分で探せ』
というのが実態として多々聞いております。
だからリクルート系のイベントを始めとして、再就職は楽勝という気持ちで
参加されるわけですが、現実は厳しいことを後々知るはめになります。
しかし、転職市場や再就職の現場では、
過去の肩書きや実績だけで評価されるわけではありません。
企業側が見ているのは、もっと現実的な部分です。
一例としてはこんな見方をされます。
- 今の自社の課題の何を解決してくれるのか。(会社ニーズとのマッチ)
- 現場で一緒に働けるのか。(コミュニケーションのやり方含めた柔軟性、スピード感など)
- 新しい文化に適応できるのか。(自社文化を尊重し柔軟性がどれだけあるか)
- 過去の実績を押しつけずに動けるのか。(過去の実績は無価値である自覚があるか)
- 年下の上司や若い社員とも協力できるのか。(上から目線はNGで、仲間と同じ目線に立てるか?)
- 新しい顧客を呼び寄せてくれそうか。(過去の人脈を生かして事業を大きくしてくれそうか?)
- 希望年収の相場観はどうか。(応募先企業のいる業界の相場でものを見ているか?)
挙げたらきりがないですけど、このような泥臭いものばかりです。
つまり、シニア転職で問われるのは、単なる経験年数でもなければ
過去の栄光でもありません。
その知見や人脈を、新しい職場に合わせて使い直せるかどうかです。
大企業から小さな会社へ移ると「文化」が変わるという常識に戸惑う
早期退職後や定年後の再就職では、
以前よりも規模の小さな会社に移るケースがほとんどじゃないでしょうか。
ここでいう「小さな会社」とは、社員数や売上規模だけの話ではありません。
仕事の進め方が違う、報連相の仕方が違う、意思決定のスピードが違う、責任の持ち方が違う。
まだまだあって、制度や仕組みの整い方がまるで違っており、人間関係の距離感も違います。
以前の会社では、分業が進んでいて、専門部署が対応してくれていたことも、
新しい職場では自分でやらなければならないことが多々出てきます。
というか、それが普通です。
逆に、以前の会社では当然だった丁寧な手続きや根回しが、
新しい職場では「遅い」「重い」と受け止められることもあります。
ここで重要なのは、どちらが正しいかではありません。
会社が変われば、常識も変わるということです。
その常識の変化に戸惑い、置いてけぼりにされ、だんだんイヤになる。
こういうケースを多々見てきました。
「前の会社ではこうだった」が危険な言葉になる
シニア転職で注意したいのが、
過去の職場の常識をそのまま持ち込んでしまうことです。
これは往々にして、無意識にそうなっちゃうことが多い。
本人が常識と思っていることじゃない出来事は、本人には「違和感」の元。
「前の会社ではこうだった」「このやり方のほうが正しい」
・・・口にしないでもそう心のどこかで思っている、それが古い常識を持ち込んでいる状態です。
こうした言葉はちょろっとでも口にすると、本人に悪気がなくても、
新しい職場では周囲にマイナスに受け取られるものです。
もちろん過去の経験から見て、改善できる点が見えることはあるでしょう。
というか、大ありに思えるはずです。
しかし、信頼関係ができる前にそれを強く出すと、
周囲からは「上から目線」「昔のやり方の押しつけ」と見られやすくなります。
特に、年下の上司や若い社員が多い職場では、ここが大きな壁になります。
履歴書・経歴書で見られているところ
シニア世代の中途採用では、言うまでもありませんが即戦力が求められます。
ただ即戦力とは、過去の実績を語れる人のことではありません。
従って、履歴書・経歴書に「オレはこんなにすごいんだぞ!」は何の役にも立ちません。
自己アピールでも抽象的になりがちで、人事担当者は「フフフん」とかしか見ていません。
では面接前に採用側は、経歴書で何を見ているのでしょうか。
書類審査段階では、特に自社ニーズに合いそうかどうか?は前提条件のひとつ。
気をつけないといけないところ、つまり必ず気にかけられる点の例です。
あくまで国内企業での典型的な例でして、どこも共通しているわけではないので、
その点はご了承ください。
- 単一の企業またはそのグループ会社でずっと定年までやってきた方
- 転職回数が多い方
- 経歴にブランクがある方
最初の単一企業で、という方はこれはこれで立派だともいえますが、
正直に言うと、世間の幅が狭い、視点が狭いんじゃないかと心配するものです。
また面接での受け答えからは、その人の柔軟性や現場適応力を見ています。
立派な経歴があるにもかかわらず面接で落ちる人は、能力がないから落ちるのではありません。
「この人は、うちの現場に合わないかもしれない」
そう判断されてると書類選考段階で落ちるのが普通です。
採用後に続かない人の理由
採用されたあとに続かない人にも、よくある共通点があります。
それは、期待と現実のズレです。
例えば、
・もっと自分の経験を評価してくれると思っていた。
・もっと周囲が頼ってくれると思っていた。
・もっと整った環境で働けると思っていた。
さらに泥臭いことを言うと、職場にもよりますが、
・まさか電話番までやらされるとは思わなかった。
(一度も外部からの電話を取ったことがないと、これ自体がストレスになります)
しかし、新しい職場では、最初から特別扱いされるとは限りません。
むしろ、周囲は慎重に見ています。
この人は、自分たちのやり方を理解してくれるのかどうかとか、
そして現場の空気を乱さず年下の人とも普通にうまくやっていけそうかとか、
過去の肩書きを振りかざさないかとか、です。
この段階で本人が「こんなはずではなかった」と感じると、一気に不満が溜まります。
その不満は新しい職場で以前からいる人たちにとっても重荷になります。
そして、最終的には「この会社は自分に合わない」
「自分の経験が活かされない」という結論になってしまうのですね。
新しい職場で最初にやるべきこと
では、シニア世代が新しい職場でうまくやっていくには、何が必要なのでしょうか。
思うに最初に必要なのは「観察」だと思っています。
この会社では、誰が何を決めているのか。
報連相はどの程度求められるのか。
どこまで自分で判断してよいのか。
どんな言葉を使うと伝わりやすいのか。
現場の人たちは、何に困っているのか。
どの部分なら自分の経験が役立つのか。
まずは、これを丁寧に見ることです。
ただし、これは本来期待されていることをこなしつつ観察するという意味です。
そして次に必要なのは、溶け込むことです。
最初から自分のやり方を押し出すのではなく、まずその職場の流儀を理解する。
そのうえで、信頼関係を作る。
そして、信頼関係ができるなかで、自分の経験やノウハウを少しずつ出していく。
この順番が大切です。
経験は「押しつける」より「じわじわ効かせる」
シニア世代の強みは、間違いなく経験です。
ただし、その経験は、いきなり前面に出せばよいわけではありません。
むしろ、最初から強く出しすぎると、周囲に警戒されます。
大事なのは、相手の困りごとを理解したうえで、必要な場面で経験を使うことです。
現場の状況を見て、相手の言葉で説明し、相手が受け取りやすい形で提案する。
これができる人は、シニア世代であっても新しい職場で十分に活躍できます。
逆に、どれほど立派な経験があっても、それを押しつけてしまうと、
現場では受け入れられにくくなります。
シニア転職で必要な3つの視点
シニア世代が転職や再就職で失敗しないためには、次の3つの視点が重要です。
1. 自分の市場価値を客観的に見る
過去の年収や肩書きではなく、今の企業ニーズに対して何を提供できるのか。
その企業の置かれている環境・変化を冷静に見る必要があります。
そのうえで、自分が「今」どのくらいの価値をもたらしそうか?
だから自分のこの職場における価値(例えば年収)はこれくらいだ。
そんなふうに客観的に言えるよう目指しましょう。
2. 新しい職場の文化を観察する
会社が変われば、仕事の常識も変わります。
まずは相手の文化を観察し、理解する姿勢が大切です。
ひとつアドバイスすると、観察するにもまず自分のこれまでの常識を壊すことです。
過去の常識という鎧を完全に消し去る、リセットするくらいの覚悟があると良いです。
ずっと過去の栄光を心のどこかで引き摺っていると、
必ずというほどどこかで壁にぶつかり、挫折の原因になります。
新しい職場では、あなたの過去の栄光なんてクソの役にも立たない、
ある意味どうでもいいものなのです。
3. 信頼関係を作ってから経験を活かす
経験は大きな武器です。
ただし、信頼関係ができる前に出しすぎると、押しつけに見えます。
まずは溶け込み、そのうえで経験を活かすことが重要です。
これにはもしかすると年単位でかかるかもしれません。
私もそうでしたので、むしろ数ヶ月レベルで経験を活かせる人は羨ましいくらいです。
まとめ
シニア転職で失敗する人は、必ずしも能力が低いわけではありません。
むしろ、過去に十分な実績を持っている人も多くいます。
しかし、過去の成功体験や過去の職場の常識を、そのまま新しい職場に持ち込むと、
まずもってうまくいきません(ほぼ断言できます)
新しい職場には、新しい文化があります。
新しい人間関係があります。
新しい仕事の進め方があります。
そこで必要なのは、過去の自分を誇ることは害あって一利なし。
新しい職場ではあなたのアウトプットによる未来しか意味がありません。
一度、自分の常識を脇に置いて相手の文化を観察すること。
まず溶け込むこと、そして信頼を作ったうえで、経験を活かすこと。
この順番を間違えなければ、シニア世代の経験は大きな力になります。
逆に、この順番を飛ばしてしまうと、どれほど立派な経歴があっても、新しい職場では苦戦します。
シニア転職で本当に問われるのは、過去の肩書きではありません。
自分の常識を壊し、新しい環境に合わせて
自分を再構築できるか。
ここに、再出発の成否があると思います。